宇検村に伝承されているケンムンのおはなし

むかし、住用の市集落の男が、明日にも子供が生まれそうな妻のために、宇検の湯湾集落までソテツの実を買いに行きました。ところがその帰り道で大雨が降り出したので、男はガジュマルの木の下で雨宿りをしたそうです。

そこに二匹のケンムンが現れたので、男はこっそりと二匹の会話を聞いていました。するとそのうちの一匹が「市集落に女の子が生まれたので、ヤンハジをしてきたよ」。と言い、それを聞いたもう一匹のケンムンが、「どんなヤンハジかね。」と尋ねたのですが、はじめのケンムンが、「十九になった時、瀬戸内の勝浦集落から嫁を貰いに来る。家を出て嫁に行くときに大雨が降るだろう。洞窟の中に入って雨宿りをしていたら、その穴が崩れ落ちてきて、娘が埋もれて死んでしまうヤンハジだ。」と得意そうに答えたものだから男はびっくりし、雨が上がると一目散に走って帰ったのでした。

家に着くと親類の者たちが集まっており、赤ん坊に湯浴みなどをさせてがやがやとしていました。「生まれたは男か、それとも女か。」と真っ先に男が尋ねると、親戚は口を揃えて「女だよ」と答えました。男はいてもたってもいられなくなって、家にも入らず、産み月の人はおらぬかと村中を探し歩いたのですが、自分の妻以外にお産は無かったと知ると、あのケンムン達の話は紛れもなく我が子のことだと悟りました。そして、そのことは誰にも知られまいと、胸にしまい込んだまま月日が流れたのです。

男の心配をよそに娘はすくすくと育ち、やがて十九を迎えると、勝浦から嫁にもらいに来たというので、嗚呼やっぱりケンムンがヤンハジをした通りになったと男は肩を落としました。娘が嫁に行く時は、親は送って行かないものという古くからのしきたりがあったので、「どんな可愛い娘であっても、親はおうり(嫁入りする時に送る人)をすることはないからやめろ。」と兄弟からしつこく言われましたが、男は聞く耳を持たず、とうとう自分で娘を送って行きました。

するとケンムンの言っていた通り途中で大雨が降ってきたので、「晴れ着を濡らすから穴の中に入っておいで。」と、事情を知らされなかった村の衆が娘を穴に連れて行ってしまったのです。ケンムンのヤンハジを忘れていなかった男は、「これは危ない」とすぐに駆け寄り、娘の手を引っ張って穴から連れ出すと、間一髪で穴は崩れてしまいました。「やれやれ、これで助かった」と男は肩をなでおおろし、「ここまで私が送った。あとはあなたたちに頼みます。」と勝浦の人たちに告げて家に戻りました。無事勝浦へ嫁いだ娘は、ヤンハジを外したおかげで百歳まで長生きしたそうです。

久永オオマツ媼の昔話より引用 山下欣ー・有馬英故共著

「ヤンハジ」とは、運定めのことです。久永オオマツ媼の生地「生勝(イケガチ)集落」では、子供が生まれるとすぐ、産湯に金物を浸すなどして、ケンムンによる生児の運定めを外さなければならないと信じられていたようです。

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