
むかしは、今のように子供たちが遊ぶ遊具も場所もなく、山や野原に出て、イチゴなどの木の実をとって食べるのが楽しみでした。その頃、村のはずれにあったナーダ(地名)の水車小屋(砂糖きびをしぼるための水車)はよい遊び場でした。そこはガジュマルがしげり、人けのない時はとてもさびしい所でした。

田植えが終わった頃、友達三、四人でガジュマルの根っこや枝に上って遊んでいると、突然、「ヲー」といううなり声がしました。何だろうと思いガジュマルの上の方を見ると、赤茶けた髪をたらし、口が大きく横にさけ、そして突き出た顔のものが足のひざを曲げ、その上に両手のひじをついてじーっと私達を見ていました。私達はびっくりして、われ先に逃げ出しました。

そして家に帰り、そのことを家族に話すと、祖母はびっくりぎょうてんして、「お前達はケンムンに会ったんだよ。」と言って、トブラ木の枝で何かを唱えながら、私を懸命にたたくのです。私は何がなんやらわかりませんでしたが、今考えると、それで悪いムンを払っていたのです。その悪いムンがケンムンなんです。今でもその時のケンムンの顔と姿をはっきりと思い出すことができます。本当にいるんですよ、ケンムンは。

(奄美の民話 ケンムン話特集より引用)


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